うつ病の人が家庭内にいると、調子が悪い時は、明らかにふさぎ込んで辛そうにしていることでしょう。家族としては、治療に専念して1日も早く良くなってほしいと考えると思います。しかし、うつ病の症状の波は目で見えるものではなく、当事者にとっても突然やってくることがあります。
そんな時に、「どうやって話を聞いたらいいのか」と迷ったことはありませんか?
「悩みや気になっていることがあるなら話してほしい」
「本人が話してくれるのを待ちたいけど、抱えていると余計に辛くなるのではないか」
「でも、無理に聞き出してしても、返って症状が悪化するのではないか」
家族の不安や心配はつきません。
そこで今回は、なるべく当事者に負担をかけず、家族も不安になりすぎず、上手に話を聞くための3つのポイントを解説します。
①まずは今の気持ちを確認する
なぜ、家族は当事者の話を聞こうとするのでしょうか?
当事者のことが心配だから、というのはもちろんそうだと思います。
では、他に何を心配しているのでしょうか?
当事者の調子が悪いことで、家族には様々な影響があります。例えば、当事者が配偶者で仕事を休んでいるのであれば、職場復帰の時期や環境を変えるための転職を促すかなどを迷うかもしれません。子供がいる方であれば子育てへの影響や学費の心配、当事者が学生であれば学校や進路の心配などもあるでしょう。
ここで一度立ち止まって考えてほしいことがあります。上記に挙げられている不安は、「未来」を想像した際に生まれた感情です。しかし、当事者が辛いのは「今」です。もし家族の将来への不安が高まっている状態で当事者の話を聞こうとすると、その不安は当事者に伝わります。上記のような不安は当事者も同様に抱えていますので、早く何とかしなければと焦ります。すると、当事者は心配をかけまいと不安を出さないようにますます抱えがちになってしまいます。
まずは、「今」に気持ちを戻しましょう。そして、改めて「今」調子が悪い本人に対して、何を聞きたいのか考えてみてください。
当事者ではなく、自分の不安を解消するために話を聞こうとしていませんか?
家族が描く当事者像に持っていくために、自分の気持ちを押し付けようとしてしませんか?
もしそうであれば、声をかけるのは一旦見送った方がいいかもしれません。
一方で、「今日の薬は飲んだ?」「この後の予定、無理しなくてもいいけどどうしたい?」など聞きたいことが明確で、今の本人の状態に目を向けることができるのであれば、声をかけるのにいいタイミングだと思います。
②挨拶や何でもない会話から入って、反応を見る
皆さんは、最初の第一声はなんと声をかけるでしょうか?当事者との関係性、時間帯、体調などで当然変わってきますので、正解はありません。
どうやって声をかけるか迷うのであれば、まずはいつも通りに接するのがオススメです。うつ病の当事者の多くは、腫物扱いを嫌います。気を遣わせる存在になってしまったと自分を責めたり、迷惑をかけていると考えたりするからです。
うつ病になったからといって、別人になったわけではありません。
朝起きたら挨拶をする、外から買ってきたらただいまとお帰りを言う、食事の席で食べているものの感想を言うなど、一緒にいて当たり前に話していることから入ってみましょう。その時に、いつもと反応が違って話したくなさそうであれば、深追いしないのも1つの方法です。調子のことに触れなくても、自分が気になっていることを当事者に質問することだってできます。もしかしたら、いつも通りの会話でほっとできたことが、自分の気持ちを話し始めるきっかけにかもしれません。
話さなきゃと思うのも、見守らなきゃと思うのも、どちらも決めつけです。いつも通りに話しかけ、相手の反応を見ながら聞く内容を決めるというのは、普段の会話でしていることと何も変わりません。一概に対応を決めるのではなく、身構えすぎずに声をかけてみましょう。
③実は、調子よりも日頃のコミュニケーションが反映される
その場でどう聞くかを考えることも大切ですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に普段の会話が大切です。
自分が誰かに悩みを話すときのことを考えてみてください。
これまであまり話していない人に、急に自分の悩みを相談するでしょうか?
相談しても小言や説教が返ってくる相手に、また相談しようと思うでしょうか?
結局、私たちが自分の気持ちを話せるのは、普段からよく話し、受け入れてくれることが分かっている相手です。調子によって話したいとき、話したくない時がありますが、話せそうと思った時に相手を選ぶのは普通です。
また、辛い気持ちを話すことだけが当事者の気持ちを和らげるわけではありません。何気ない会話や冗談を言い合っている内に、いつの間にか心がほぐれていることだってあります。
いざという時にお互いに相談ができるよう、まずは普段の会話から意識してみてください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
話の聞き方に1つの明確な正解はありませんが、どう接していけばいいのかを考えるヒントになれば幸いです。
大事なことは、上記のポイントを「いつもやらなれば」とは考えないことです。家族も人間なので、同じように気分の波もあります。毎回上手に話を聞くことは、例えプロのカウンセラーであっても難しいことです。また、実際に話を聞いた後に当事者の調子が悪くなったとしても、家族が話を聞いたからとは限りません。他に気になることを思い出したり、実は体の不調なんてこともあります。
日頃の会話を大切にしつつ、お互いが負担にならないように、それぞれの家族ならではのちょうどいい距離感を探っていただければと思います。