ビューズでは、気分障害の方を対象にした社会復帰支援を行っておりますが、その主となるのは集団プログラムです。自己理解系、身体系、コミュニケーション系、ビジネス系と大きく4つのカテゴリーに分類され、多角的な視点で社会復帰に向けたトレーニングを受ける機会を提供しております。
自己理解系プログラムの1つに、自分の考え方/行動の癖を自覚し、変えていくことを目的とした「CBGTアプローチ」があります。CBGTはCognitive Behavior Group Therapyの略で、日本語に直すと集団認知行動療法、となります。認知行動療法は心理療法の1つで、うつ病等の気分障害に対する再発予防に効果があることが証明されています。
CBGTアプローチの内容は多岐にわたるため、今回は「コーピング」という用語に絞ってお伝えします。コーピングは「ストレスを感じたときに行う意図的な気分転換」と定義しており、自分で自分の機嫌を取ってあげるイメージで、メンタルの悩みを抱える方ほど積極的に行うことを推奨しています。その理由やコツを解説していきます。
元気がないと気分転換ができない?
趣味に没頭する、美味しいものを食べる、人に話す、運動する……私たちはこういった好きな活動を、日常的にするだけでなく、ストレスから生じた嫌な気分を発散するために行うことがあります。終わった後のすっきり感、満足感があるので、また気持ちが沈んだ時にやろうと思うのでしょう。
一方で、気分が落ち込み活力もない時は、「やる気がしない」「人の笑い声が辛い」「人と話したくない」と感じてしまい、楽しむ気分になれません。うつ病等の気分障害で悩む人は、この状態が長く続きます。特に発症直後は急性期と呼ばれ、気分・活力が大きく低下しているため、そもそも気が休まりません。そこで、服薬と療養によって回復を図ることが重要です。
療養が進むと、徐々に気分・活力が回復してきて、少しずつ行動を起こしやすくなります。この段階を回復期と言います。ビューズは通所型の施設であり、急性期の状態では継続して通所することが難しいので、回復期に入った方の通所を推奨しております。
しかし、実際にビューズに通っている利用者の方でも、コーピングをしていない、あるいは苦手と感じている方がいます。これはなぜでしょうか?
「療養中は楽しんではいけない」という思い込み
ビューズに通っている方の共通のゴールは社会復帰です。 1日でも早い復帰を目指し、再発予防の訓練に真剣に取り組まれる方ばかりです。しかし、ずっと頑張ってばかりでは気が張り詰めてしまい、途中で息切れを起こしてしまいます。にもかかわらず、皆さん頑張ろうとします。
お話を伺うと、「社会から離れているのだから、遊んでいてはいけない」「周りからさぼっていると思われたくない」という罪悪感を抱えていました。周囲の目を気にしての考え方かもしれませんが、他でもない自分が自分に対してネガティブな縛りを作っている印象です。症状に関係なく、ずっと頑張り続けることは誰にもできません。
「力の抜き方が分からない」という悩み
また、コーピングをした方がいいと分かっていても「ちょうどいい力の抜き方が分からない」「リラックスの感覚がつかめない」と悩んでいる方もいます。詳しく伺っていくと、気分障害に悩む前から気分転換に苦手意識があり、仕事中も上手く休憩を取れていなかったようです。この状態では、いくら周囲から「もっと力抜きなよ」と言われてもどうにもならず、コーピングでリラックス感を得ることができません。
以上を踏まえ、ここからはコーピングのコツについて考えていきましょう。
①「とにかくやってみる」
後回しにしていた掃除に手を付けたら、いつの間にかあちこち手を付けていた、という経験はないでしょうか?気が乗らないと思うことでも、やっている内に気持ちが追い付くことがあります。コーピングも同じで、あれこれ考えずとにかくやってみる、ということが大切です。罪悪感を緩めるのも、ちょうどいい力の抜き方をつかむのも、試してみないとできません。
②「瞬間に意識を向ける」
コーピングを試す際は、旅行などの時間も気力もかかることではなく、身近ですぐにできることからが良いです。日々の自分の行動を思い返してみると、瞬間的に楽しいことは意外と多いものだと気づくはずです。例えば、夕食が美味しく作れた、道で可愛い猫に会えた、スーパーでよく買うお菓子が安売りされていた、テレビCMで気に入った曲を見つけた…1つ1つはとりとめもないことですが、その瞬間に意識を向けて味わえるかどうかで効果は変わります。
③「一時的な効果でOK」
コーピング=「ずっと楽しい気分でいること」と勘違いしてしまうことがありますが、気分がずっと上がっているのはむしろ不自然です。楽しい、気分が安らぐ、安心するなどの心地いい感覚が一時的に持てればOKで、それが沈んでいた気分を切り替えるきっかけになります。
以上、3つのコツをおさえた上でコーピングを実践していくと、徐々に自分にとって効果のあるものが何かが見えてきます。ビューズでは、最終的にはコーピングリストとしてまとめ、社会復帰後にも継続できるような準備をするようにお勧めしています。わざわざリストにする必要があるのか?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、リスト化しておくことでコーピングの中身に幅を持たせることができます。また、いざ忙しい日々を過ごすとコーピングを取り入れるのを忘れてしまいがちになるため、見返せる資料として役立ててほしいと思います。せっかく繰り返し効果を確認した努力の証でもあるので、活用できるものを作る必要があると考えています。
いかがでしたでしょうか?
今回のブログの内容が、ネガティブな気分から抜け出せない方や、力の抜き方に悩んでいる方の参考になれば幸いです。
ビューズのCBGTアプローチは、コーピング以外にも様々なテーマで実施しています。次回は、気分障害の再発要因につながる「回避(ネガティブな感情を体験しないようにすること)」というテーマをブログでお伝えしていきたいと存じます。