新しい集団に所属する前、皆さんはどう感じるでしょうか?
新しい出会いがあるかもと期待する気持ちを持つ方もいれば、集団の中で馴染めるか不安に感じる方もいると思います。
ビューズ@名駅はうつ病等の気分障害の方を対象にした社会復帰施設で、利用者さんが集い、自然な交流が生まれる場でもあります。しかし、利用される前は、「自分はコミュニケーションがあまり得意ではない」と感じている方が多いのです。社会でコミュニケーションが上手くいかず、つまずいてしまう事は誰でもあり得ることです。
そのため、うつ病発症の理由が対人関係のトラブルであるということはよくあります。特に、対人関係で長期にわたり上手くいかない時期が続いた方は、不安や恐怖が記憶に残ってしまうことがあります。休職・離職中は人と接する機会が減るため、社会復帰前にコミュニケーションの練習が必要ですが、不安が強いと人との交流を遠ざけてしまいます。
一方で、多くの方が「本当はコミュニケーション自体はできれば楽しみたい」「社会復帰後にコミュニケーションで辛い思いをしたくない」という強い気持ちを持っています。 ビューズでは、不安を感じつつもコミュニケーションしたい方を支援する目的で、安全にコミュニケーションが図れるルールや、自然と交流の機会を作れるプログラムを揃えています。今回は、その内容を紹介し、コミュニケーションに不安を感じている方が、ビューズでどのような経験ができるのかを知る機会になればと思います。
コミュニケーションが苦手な理由
コミュニケーションが苦手だと、会話・交流を避けたくなってしまいます。人によってコミュニケーションが苦手な理由や背景は様々ですが、その中でも代表的な理由をいくつか紹介します。
①嫌な事を実際に言われたりされた記憶があり、人と接した際に嫌なイメージが浮かびやすいから
▶過去のいじめ体験、家族による虐待、DVなどで実際に暴力を受け、恐怖が心と体に残ってしまっている状態です。
②もともと人見知りが激しく、自分から話しかけて交流する経験が少ないから
▶受け身になりやすく、学校や職場では声をかけてもらった人との交流に限られ、仮に友人がいたとしても「自分から仲良くなれた」という経験がないので、自信が持てない状態です。
③発症してから自分に自信を無くし、消極的になってしまったから
▶発症してしまった自分を「恥ずかしい」「こんな自分では受け入れてもらえない」と考えすぎてしまい、以前仲の良かった人とも連絡を遮断して孤立してしまう状態です。
このような理由を抱えつつもコミュニケーションを頑張ろうとすると、強い緊張が生じます。しかし、緊張は、恐れや不安を抱きながらもなんとか誰かと交流しようと葛藤し、相反する感情がせめぎ合った際に起こる自然な現象なのです。「緊張してしまうのはおかしい」と自分を責めてしまう人が多いですが、全く悪いことではありません。そして、ビューズはその思いを十分に共感してもらい、一緒に苦手に感じる理由を考えてくれる場所です。自分なりの理由が分かると、少しハードルが下げられるかもしれませんね。
とはいえ、緊張すると集中できなかったり、慌ててしまったり、身体に力が入って疲れてしまったりと大変です。強い緊張にさらされる時間を少なくすることは、楽に活動するためにも大切です。
緊張を安心に変えられるよう、ビューズの仕組みをご紹介します。
ビューズで安全にコミュニケーションが取れる理由
①みんなで安心を作るグラウンドルールがあります
ビューズには、過去の嫌な体験が再現されることが無いよう、安心できる環境をみんなで作っていくためのグラウンドルールがあります。
1.主体性を重視する
利用者さんが自ら考え主体的に動くことを大切にします。スタッフは利用者さんのできることを奪わず、それぞれの力を最大限に発揮できるよう、サポートします。周囲から言われたことではなく、「自分がどうしたいのか」とじっくり向き合って考えることができます。
2.人の発言を否定したり、決めつけたりしない
利用者さんの発言にはそれぞれの経験や生い立ちなどの背景が関わっています。スタッフのみならず、まわりの利用者さんもそのことを常に意識し、皆で安心して発言できる場をつくっています。
3.多様性を尊重し、それぞれの背景を知る
利用者さん、スタッフを問わず、それぞれの人が多様な経験や考えを持っています。考え方や価値観が違っても、お互いの背景を語り合い知ることによって、新しい視点を取り入れる体験を大切にしています。
4.安心して失敗できる場をつくり、守る
ビューズでは、各々の目標に沿って「行動実験」というチャレンジを行っています。たとえ失敗をしようと、誰からも否定されず、一緒に振り返って次にどうすればいいのかを話し合うことができる環境です。
5.グループの力を最大化する
スタッフが一方的に教えるのではなく、利用者さん同士の話し合いを重視しています。身構えず、リラックスしながらお互いに考えていることを伝えていく中で、自然と気づきが生まれます。
この5つのルールを、スタッフ、利用者さん全員が守ることで、安心して自分の気持ちを言葉にできる環境になるのです。
②自分から話しかけなくても大丈夫。段階的に自然とコミュニケーションが取れる交流会・プログラムがあります。
まず、新旧の利用者さんが交流できるような枠組みとして入所時オリエンテーションという交流会を行っています。詳しくは別ブログでご紹介する予定ですが、自己紹介をしつつ入所初期ならではの不安を相談できる時間になっています。
次に、プログラム参加をどのように進めていくのかをお教えします。まず、見学のための座席を用意しているので、雰囲気をつかむところからスタートできます。また、実際に集団プログラムのテーブルに入った上で見学でき、話し合いの様子を近くで聞くこともできます。加えて、自然とコミュニケーションを取れるプログラムとして、ダイアログと3Dコミュニケーションという2つのプログラムを準備しています。
ダイアログ:テーマを決めて対話をするプログラムですが、事前に自分の考えを付箋に書き出す時間を作るので、話す内容を考えた上で臨むことができます。
3Dコミュニケーション:自己紹介の準備をした上でコミュニケーションの練習ができるようになっています。
うつ病の再発を感じた時にこれらの対策を講じることで、症状の悪化を防ぎ、早期に回復への道を見つけることができます。
このように、段階的に、かつ自然にコミュニケーションの機会を作れるようになっております。
③適度な距離感を維持した上で接することができる
いざ交流を始めようとすると、「近すぎる距離感が苦手」「近い関係性になって、相手に嫌な思いをさせるかもと思うと怖い」と考えて身構えてしまうことはないでしょうか?しかし、そもそも対人関係の深さには程度があり、できる・できないの2択ではありません。
そして、ビューズでは親友を作るような深い関係性を作る必要はありません。社会復帰後のことを想像していただくとイメージしやすいのですが、社会で出会う人全員と親友になることはないと思います。会社であれば、関係性を維持しつつ気持ちよく仕事ができるような距離感を作れれば十分です。その距離感は、以下のプロセスをたどって構築されていきます。
1.お互いのことを知ってどのような付き合い方ができるか検討する
2.相手への労いや感謝などポジティブな感情を伝えていく
3.関わりの中で相手を見ることで相手が意図していることを汲み取り、相手が求めていることに応えるよう努める
この中で、「話せてよかった」という体験を積むことで相手の信用が溜まっていき、さらに自分のことを話してもいいかも、という気持ちになります。ビューズでも、少しずつ利用者さんと交流し、「話しやすい人ができた」「信用して自分のことを話せる人ができた」という経験ができれば自信につながると思いますし、必ずしも深い段階まで受け入れないといけない訳ではありません。
いかがでしたでしょうか?
コミュニケーションの不安はどうしても感じてしまうものですが、ビューズでは正しい・間違っているを問われず寛容な雰囲気であるので、力を少しずつ抜くように馴染んでいくことができます。すぐに人に対する不信感が拭えなくても、今は自信を失ってしまっていても、人と関係性を築きながら自分を見つめ直し、自信を取り戻していくことができます。
また、通所して間もない方やコミュニケーションに不安感を抱える方の気持ちに、スタッフも寄り添いサポートしていきます。「安心して話せるようになりたい」という想いに応えるべく、一歩を踏み出す後押しができればと思います。