うつ病は心身に様々な不調を及ぼす疾患ですが、対人関係にも影響があります。
そこで今回は、うつ病と対人関係に焦点を当て、問題点と同時に乗り越えるための方法について見ていきましょう。
うつ病と対人関係:障壁となるポイント
うつ病の主な症状には、気分の落ち込みやエネルギーの低下があります。これらの症状は対人関係を形成する上で障壁となる可能性が考えられます。ポイントとして以下のようなものが取り上げられます。
1. 孤独感の深さ:気分の落ち込みやエネルギーの低下が他者とかかわる意欲を阻害するものとして働き、その人の孤立感を強めてしまいます。活動エネルギーの低下から、社会的に引きこもりがちになり、他者との関係を築くことが難しい状況へと発展する場合も考えられます。
2. コミュニケーションの難しさ:エネルギーの低下は、コミュニケーションへの積極性が失せることに繋がることがあります。気分の落ち込みはポジティブなコミュニケーションを構築することの難しさに通じるかもしれません。
3. 自己否定感: うつ症状の影響で自分に対する否定的な感情が強まっているため、うつ病の方は自分を否定的に捉えがちです。他者とコミュニケーションをする際には、不安を感じやすかったり、ストレスになったりすることがあります。このようなことが、他者との交流において自信を持つことを難しくするかもしれません。
対人関係を築くことのメリット
以上のように、うつ病によって対人関係を築くことが難しい状況にあるかもしれませんが、対人関係を築くことにはいくつかのメリットがあります。以下にいくつか記載します。
1. 感情のサポート:対人関係があると、友人や家族が感情的なサポートを提供してくれことが期待できます。具体的には、励ましの言葉や共感、傾聴のことを指し、他者がこうしてくれることによって、安心感ももたらされます。共感的な対話や理解の中で、うつ病の人は自分の気持ちを表現しやすくなります。
2. 孤立感の軽減:対人関係を築くことで、孤立感が軽減されます。友人や仲間がいる環境では、一人で抱え込むことが少なくなります。
3. 社会的サポートの確立: 対人関係があると、社会的なサポートが確立されます。社会的サポートとは、個人が他者から受ける、感情的な助けや物理的な支援、情報提供、または共感的なコミュニケーションなど、さまざまな形態の支持や援助のことを指します。すなわち、上述のような感情的な側面のみならず、体に良い食べ物や習慣、専門家や医療機関などの情報のことを指します。社会的サポートは日常生活での様々な面での支えとなり、うつ病の症状への対処をしやすくします。
4. 新たな視点や刺激:対人関係を通じて新しい人と出会ったり、異なる視点や意見をもらったりすることができます。これが生活に新たな刺激をもたらし、ポジティブな変化を促進します。
5. 自己認識の向上:対人関係は自己認識を向上させる一因となります。自己認識とは自分自身を理解し、洞察を加えることです。他者とのコミュニケーションを通じて、自分自身を理解し、成長する機会が増えます。
6. 日常生活の支援:対人関係があれば、日常の様々な活動や責任を共有できます。友人や家族のサポートがあると、日常生活のストレスや負担を分かち合うことができます。
7. ポジティブな影響:対人関係が構築され、信頼関係に基づく励ましは前向きな気持ちにつながり、回復のプロセスを促進します。
これらのメリットを見ると、対人関係を形成することは大切であるということが良く分かります。しかしながら、メリットがあると分かっていても、実際にやってみることは難しいでしょう。
ここからは、ビューズ利用者の方が実際に抱えているリアルな対人関係の心配や、それに対する対策を考えた具体例をお伝えします。
新しい対人交流に入るときに心配なことは?
・うまくなじめるか?
スタッフコメント:一番多く上がった心配です。対人関係で苦労した体験をしている方も多いので、余計に心配になるのだと思います。
・どういう自分でその環境にいればいいのか?
スタッフコメント:会社で見せる顔、家庭で見せる顔、友人に見せる顔など、人はさまざまな顔を使い分けていますが、過去のなじめなかった体験から、どのように振舞えばいいのかを悩んでしまうのかもしれません。
・どのタイミングで自己開示するか?
スタッフコメント:対人関係を作るために自分の思いを伝えることは大切ですが、新しい対人交流では「自分の思ったことを伝えたら否定されないか?」と不安になりますね。
・人間関係の暗黙のルールを破ってしまうこと
スタッフコメント:特に組織の場合、関係性が作られる歴史の中で目に見えない人間関係のルールが作られることがあります。知らぬ間にそのルールに触れてしまい、集団から疎外される、というネガティブなイメージを持ってしまうのかもしれません。
対策は?
・観察する
スタッフコメント:どのような人が所属する集団なのか、どのようなことを話しているのか、まずは観察から始めるという意見が上がりました。「上司だから」などの役割でレッテルを張らず、純粋に相手の様子を観察して事実を確認するのがポイントですね。
・雑談をしてくれた人から話しかけてみる
スタッフコメント:新しい対人関係で雑談をしてくれた人というのは、交流の医師がある方です。最初にある程度安心して話せる人が1人見つかることで安心できるという意見が多く上がりました。
・自己開示をしてもいいラインを見つける
スタッフコメント:前述の不安で上がったタイミングに加え、「この場でどこまで自分の意見を言ってもいいのか?」という考えが頭に浮かぶと、自己開示をためらってしまいます。特にこの日は「病気のことをどこまで話すか」というテーマで自己開示してもいいラインについて話し合う様子が見られました。話すことにためらいはあるものの、信頼できそうな人やわかっておいてもらいたい人には伝えようと話す方が多かったと思います。
・分からないことを聞く、小さな感想を話す
スタッフコメント:多かれ少なかれ、新しい環境では必ず分からないことや知らなかったことに触れます。「自分のことを話そう」と考えると身構えてしまいますが、質問や感想という自然な会話の中で小さな自己開示ができると、相手の反応も観察でき、自己開示のハードルが下げられるでしょう。
・誘いにのる
スタッフコメント:コロナ禍が明け、会食の機会も徐々に戻ってきました。ランチや飲み会などまずは日常の中にある誘いに乗ってラフな雰囲気で話ができると、お互いの緊張も緩むでしょう。興味のあるイベントへの誘いはもちろん、自分の知らない領域への誘いにもとりあえず乗ることで相手を知る機会にしている、という方もいらっしゃいました。
まとめ
いかがだったでしょうか?
うつ病の症状を抱えることで、一時的に社会から離れ、かつ復帰時には新しい環境に行くことになるため、社会復帰までのプロセスの中で多くの新しい対人交流を経験することになります。ビューズは常に入退所者が出る環境なので、実は新しい対人交流を作る練習をするには格好の環境です。