ビューズ@名駅では、支援員との面談を通した課題の整理、再発予防のためのプログラム参加、利用者同士の交流など様々な体験ができますが、これらに加えて季節の行事も行っています。
そして、この行事はスタッフが運営するのではなく、利用者の方が主催となり、スタッフと相談しながら進めていきます。一見すると学園祭のやり直しか?と思いますが、実はこのイベント参加には社会復帰に向けてのステップが多く詰まっています。
今回は、通所を開始したばかりのある利用者さんが、イベント参加、そして運営に携わっていくことでどのような体験をしていくことができるのか、事例形式で連載していきます。
まずは、主催側ではなく、一人の参加者としてイベントがどう感じるものなのかを見ていきましょう。
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Aさんは、夏の終わり頃からビューズに通い始め、約2か月が経ちました。これまで自宅で過ごしていたので、最初は人のいる空間に通い続けられるか不安でしたが、プログラムに参加していく中で、通っている利用者さんが皆同じ思いを抱えていたことが分かってきて、もう少し話してみたいと思うようになりました。しかし、話す枠組みのあるプログラムならともかく、プログラム以外で声をかけるとなると「迷惑にならないか」と考えてしまい、不安な気持ちになりました。特に、1日通所をするとお昼休みがあり、自由時間が長い分、周囲の様子が気になって落ち着きません。本当は、社会復帰に向けて人とラフに話せるようになった方が良いと思っていますが、通所してプログラムに参加するだけでまだ疲れてしまう状態で、もう一歩の気力が足りません。また「自分が受け入れられないのではないか?」と心配で、自分から話かける勇気が出なかったのです。
そんな中、クリスマス会の告知がありました。ビューズでは季節ごとにイベントをやっていて、実行委員という役割の利用者さんが会への参加を呼び掛けていました。クイズ大会やみんなで絵を作るゲームなど、実行委員さんが考えてくれたみんなで楽しむための企画内容だったので、プログラム以外で話をしてみるチャンスのように感じました。
準備は、普段の活動の合間に行われました。実行委員からクリスマス飾り手伝って欲しいという呼びかけがあった際には、勇気を出して何度か参加しました。何かを作るという共通点があるので話しやすく、後から参加する人に作り方を教えることで、あまり話すことがなかった方とも話す機会を作れました。
そして、あっという間に当日を迎えました。演奏ができる利用者さん達が組んだバンドの演奏からスタートし、みんなで作った飾りや絵について話したり、温かい飲み物を飲んだりと、優しい時間が流れます。チーム対抗のクイズ大会では、準備を通して顔を合わせた利用者さんと話す機会にもなり、話し合いを通して皆さんのみんなの人柄が伝わりました。なんだか、距離が縮まった気がしたのです。
クリスマス会を経て、もともと感じていた「みんなが自分を受け入れてくれるか?」という考えは落ち着き、Aさんはそれほど不安ではなくなりました。お昼休みには、準備の時に趣味の話ができた利用者さんと過ごせるようになり、ちょっと疲れた時は1人を選ぶこともできるようになりました。通所が長い利用者さんでも、元気そうに見えても「1人で過ごしたいと思うことがある」という話を聞けたので、安心してそのように過ごすことができました。
改めてビューズのプログラム予定表を見ると、好きなものを紹介し合うプログラムやお出かけプログラムなど、みんなのことを知ったり、自分のことを話すことができる活動があることが分かりました。クリスマス会参加前だったら不安で参加を見送っていたかもしれませんが、今なら参加できそう、自分のことを話してみたいと思えたのです。
その時ふと、Aさんは「クリスマス会は、利用者さんが利用者さんのことを想って企画してくれた内容だから、こんなに楽しめたのか」と気づきます。イベントを主催する実行委員も、最初は人と交流したいと思いながら不安を抱え、イベントをきっかけに交流することができた体験を経ています。だからこそ、「どうすれば、新しい利用者さんが参加しやすい雰囲気を作れるか?」を念頭に置いた企画になっていたのです。
あれから季節のイベントにも何回か参加して、実行委員さんを陰ながら支えることができるようになってきました。新しい利用者さんが入所した時は、「最初の頃の自分のように緊張しているのかもしれない」と思うようになり、自分に何かできないかと考えています。
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いかがだったでしょうか?イベントは、ビューズで人と交流するきっかけになりますが、これは社会復帰後における環境で、どのように関係を構築して行けばよいかのヒントも隠れています。「自分が助けられたから、今度は誰かの助けになりたい」という気持ちは、人間関係を深めていくために大切なものです。症状に苦しみ、自分のことだけに精一杯だった所から、次のステップに踏み出せた瞬間でもあるのです。
次回は、このAさんがイベントの主催側に回っていくときにどのような体験をしたかをお伝えしていきます。